君と翼を。-小説- R15
「……」
近所のスーパーの特設コーナーの前でジッとチョコを見つめる女子高生が一人。
彼女の名は柚希(ゆずき)。とある高校の生徒会長を務め、普段は大人しく勤勉で生徒の模範となる真面目な子だ。
今までこういったイベントごとは彼女にとって他人事で、生徒指導の先生からの小言が増えるくらいにしか思ってなかった。
しかし、今回は違う。
少し前から彼女には恋人が出来た。もちろん周囲にそれを言うこともできないし、気付かれないように隠してる。
その理由は、相手が同じ学校に通う女の子だから。
その恋人、志帆(しほ)は柚希とは真逆の不真面目な生徒。先生たちに目を付けられ、よく留年せずにいられたものだと
感心するレベルの問題児だった。
そう、それも今では過去形。
柚希と付き合いだしてからの志帆は変わった。授業は前よりもちゃんと出るようになったし、成績も少しずつ上がって
きてる。
周りの先生や生徒には生徒会長が不良を更生させたと思われているようだ。
その認識はあながち間違いでもない。
志帆は行く気のなかった大学への進学を考えるようになったからだ。
先日のセンター試験での成績も悪くなかった。その結果に先生たちも目を丸くしたほど。
柚希は推薦が決まっている。そこか地元の大学だが、偏差値はそこそこ高い。そこに志帆も行くと言い出したときは誰もが
驚いた。先生たちは口を揃えて無理だといった。
志帆は諦めようとはしなかったし、受かる気満々だった。
現にちゃんと勉強を始めてからの志帆の成績はぐんぐんと上がっていった。要は本人のやる気次第で、元々のポテンシャルは
高かったのだろう。
そして、入試試験を控えたこの時期。バレンタインデーなどに浮かれてる場合でもないのは柚希も分かってる。
このイベントが志帆のやる気にどう影響するのか、バレンタインに興味をしてしてこなかった柚希には全く想像もつかなかった。
「……柚希。ゆーずーきーってばー」
「えっ? あ、ごめんなさい。聞いてなかったわ」
「何ボーっとしてんの。ここ、教えてほしいんだけど」
「ああ、ここはね」
自由登校になり、今日は週に一回の登校日。
二人は放課後も残り、学校の図書室で勉強していた。
しかし、柚希はバレンタインのことで頭がいっぱいだった。