top of page

ただチョコをあげるだけの行為なのに、どうしてこんなに悩んでいるのか。柚希は初めての感情に戸惑っている。
 どうやって渡せばいいのか、どんなチョコをあげればいいのか。そもそもバレンタインというイベントに興じていいのか。まずそこから悩んでいた。

「さっすが生徒会長。教え方も上手いね」
「そんなことないわよ。でも、これなら今度の入試も大丈夫そうね」
「当然でしょ。私、有言実行の女なんだから」
「そうね。貴女はそういう人よね」

 柚希はクスッと微笑んだ。
 最初からそうだった。志帆はいつだって自由で、自分の望むことだけをしてきた。そんな彼女だからこそ、柚希は信じていた。きっと彼女は合格できると。

 

「ねー、柚希」
「何?」
「頑張ったんだしさ、ちょっとだけご褒美ちょうだい」
「……またなの?」
「いいじゃん。その方が頑張れるし」
「帰ってからね」
「ダーメ、今」

 柚希は周りに人がいないかを確認し、志帆の隣に移動する。

「……目、瞑って?」
「はいはい」
「……っ」

 彼女の言うご褒美。それは、いつもは受け身の柚希からのキス。
 恥ずかしくて、自分からは絶対にしようとはしない。元々恋愛などに免疫もなかった彼女だから、無理もないことだが。

「ん……これで、いい?」
「うん。顔、真っ赤だよ? 本当に可愛いね、柚希は」
「……馬鹿」

 勉強会の度に志帆はご褒美が欲しいという。
 自分からのチョコ。それも、彼女へのご褒美になるだろうか。
 キスするときに優しく笑う恋人の喜ぶ顔を思い浮かべながら、バレンタインへの意欲を高めた。

​ 君と翼を。-小説- R15 

bottom of page