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 数日後。バレンタインデー当日。
 今日も柚希の部屋で恒例の勉強会。
 柚希はネットでバレンタインのことを調べ、本命には手作りがいいという情報をそのまま鵜呑みにして、手作りのチョコレートを用意した。
 勉強しながらも、どのタイミングで渡せばいいのか、ずっとそわそわしっぱなし。朝から落ち着かず、何も頭に入っていかない。

「……ふう。ちょっと休憩にしよっかー」
「そ、そうね」
「もう3時じゃん。結構時間経ってたんだね」
「ええ、そうね」
「3時だよ? 柚希」
「え、ええ」
「おやつの時間じゃない? 何か、ないの?」

 頬杖をつきながら、志帆はにやりと笑っている。
 その表情に気付けないほど柚希も鈍くない。完全に読まれていた。というより、今日の柚希の様子を見ていれば嫌でも気付ける。笑わずに真面目に勉強していた志帆を褒めてもいいレベルだ。

「なんか、恥ずかしいわ」
「ふふっ。ここ最近の柚希を見てればすぐ分かるって。私にチョコ用意してくれるんだろうなーって」
「もう……」

 柚希は引出しから用意しておいたチョコを出して、志帆に手渡した。
 普段はあまり表情を崩さない柚希だが、今はその熱が伝わりそうなほど真っ赤だ。それを見てるだけで、志帆は嬉しくて自然と笑顔が零れる。

「ありがと」
「こういうの初めてだから……どういうの渡せばいいのか分からなかったんだけど」
「手作りじゃん」
「口に合うといいけど……」

 包装を解き、中のチョコを見る。
 その形に性格が出てる。形もしっかり綺麗にまとまった生チョコ。
 これを作ってるときの柚希を想像しただけで、愛しさで胸がいっぱいになる。
 そんな気持ちと一緒に、志帆はチョコを一つ口に入れた。

「甘い」
「甘すぎたり、しない?」
「美味しいよ。ほら……」

​ 君と翼を。-小説- R15 

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